飲食店の固定費とは?長期的な黒字経営を実現するコストの削減方法を紹介
飲食店を経営するにあたって、利益を出すためには支出の部分はとても丁寧に見た方がよい部分です。支出を抑えられれば、利益が出やすくなりますよ。
しかし、支出を下げても、その結果サービスが低下してしまっては本末転倒。
そのため、「どの支出を削減したらいいか分からない…」とお悩みの経営者も多いでしょう。
そこで、この記事では飲食店経営における支出にはどんなものがあるのか?そして、サービスの質を落とすことなく支出を削減する方法を解説します。
支出の削減で特に重要なのは、固定費の削減です。
おかげ丸「サービスの質を維持しながら支出削減に取り組むまる!」
目次
飲食店の「固定費」と「変動費」を理解しよう
飲食店の支出には大きく分けて二つ、「固定費」と「変動費」があります。
まずは固定費について解説します。
固定費とは
固定費とは、毎月必ず掛かる支出部分のことです。
飲食店経営の場合だと、以下のものが固定費に当たりますよ。
- 地代・家賃
- 減価償却費
- 支払い利息
- リース料
- 光熱費の固定契約料
- 正社員の人件費
固定費を削減するメリットは、一度見直してしまえば継続的に支出を減らせる点です。固定費が小さいと支出も小さいので、経営が安定します。
逆に固定費が大きいと支出も大きいため、不安定な経営となってしまいます。
そのため、支出を抑えようと思った場合は、まずは固定費から見直した方がいいですね。
弟子「固定費を見直すと言っても、何を基準にしたらいいのか分からないなぁ」
おかげ丸「じゃあ次に固定費の目安を教えるまる」
固定費の目安
固定費の目安ですが、支出合計の15〜25%以内に収まるのが理想です。
大まかな内訳としては以下のようになります。
- 家賃・地代:10%以下
- その他(減価償却費、リース料等):10%以下
※正社員の人件費は、後の変動費の章で、まとめて解説します。
もし、この数値よりも高い場合は、すぐに固定費の見直しをしてみましょう。
リースや家賃などは契約期間等もあるので、すぐには難しいかもしれません。でも、一度削減できれば、以降は大きな支出削減が見込めますよ。
飲食店の変動費を理解しよう
続いては飲食店に掛かってくる変動費について解説します。
固定費の削減が大切と前述しましたが、飲食店経営にあたっては変動費の削減も慎重に行う必要があります。
その理由は、変動費はサービスの質に直結する項目が多いためです。
変動費とは?
変動費とは、その月によって支出額に変化がある項目のことです。
飲食店における変動費は、以下の項目が挙げられます。
- 食材の原価
- パート・アルバイトの人件費
- 光熱費
- 販売促進費
- 消耗品費
変動費の目安
変動費の目安は、以下が適正数値といわれています。
- 原価:30〜35%程度
- 人件費:30%以内(正社員分含む)
- 水道光熱費:5%程度
- 広告宣伝費:5%以内
- 消耗品その他:5%以内
変動費の削減はサービスの質の低下にダイレクトに繋がる恐れがあるので、実は見直しがちょっと難しいです。
しかし、工夫次第ではサービスの質を落とすことなく変動費を下げることができます。くわしくは、後の章で解説しますね。
損益分岐点は黒字化のポイント
飲食店で黒字経営をするためには、損益分岐点を意識する必要があります。
損益分岐点とは、「売上高―支出=0」になるポイントのことです。
損益分岐点は以下の計算式で算出できます。
「損益分岐点売上高=固定費×売上高÷(売上高-変動費)」
計算式一例
売上高1,000万円、固定費200万円、変動費700万円の場合の損益分岐点
損益分岐点売上高=200(固定費)×1,000(売上高)÷(1,000(売上高)-700(変動費))
=200×1,000÷300
=666.7(万円)
つまり上記の場合、売上高が666.7万円以上であれば、その店は黒字ということになります。「ちょっと、難しい…」と感じたかもしれませんが、実際に計算してみると簡単に終わりますよ。
黒字達成をするための方法は2つです。
- 売上高を上げる
- 固定費・変動費といった支出を下げる
このどちらかを実現する必要があります。
売上を上げるのは重要ですが、売上を上げるにはどうしても時間が掛かることが多いです。
その反面、固定費や変動費の削減は売上高を上げることに比べると、すぐに結果が出やすいです。
弟子「売上高アップを狙うのは、成果が大きいけど時間が掛かることが多いよね」
おかげ丸「一方で支出削減は成果に限界があるけど、すぐに結果が出やすいまる。だから最初に支出を抑えるところから始めるまる~」
固定費を減らす6つの方法
繰り返しになりますが、店舗を黒字で経営するためには、支出を下げることが重要です。
いよいよ固定費を削減する方法を解説しますね。
上記でもお伝えしましたが、固定費は一度見直してしまえば、その先も支出を抑えられます。
ここでは、固定費を下げる方法を5つ解説していきます。
- ①家賃の交渉
- ②電力会社および電気の契約プラン変更
- ③水道代の減免
- ④リースの見直し
- ⑤ネットバンクへの切り替えで手数料節約
- ⑥ガス料金の削減
①家賃の交渉
まずは月々に支払っている家賃の交渉をしてみましょう。
家賃は固定費の中でもかなり大きな項目になるので、ここを節約できれば損益分岐点もかなり下がることが多いです。
とはいえ家賃が安くなるということは、その物件の大家さんの収入が下がることにもなります。
そのため、家賃の値下げ交渉をするときは、大家さんにもメリットを掲示したうえで提案をしてみましょう。例えば、「月に一度は、当店での食事を無料にする」「半年間分を前払いする」などです。
値下げ額と釣り合うかは別の話ですが、ただ「安くしてください」よりは、快く家賃値下げを承諾してくれる可能性が高くなります。
また、テナントから出ていかれると家賃収入がなくなるため、大家さんはより長期で契約してくれるテナントに入ってほしいと考えています。
数年間営業を続けることを条件に交渉をおこなえば、家賃を引き下げてもらえる可能性もあります。
そのほかにも定期的に近隣施設の家賃相場に変動は起きていないか、確認をすることも忘れずにおこないましょう。交渉する際の情報として持っておいて損はありません。
②電力会社および電気の契約プラン変更
続いては、電力会社や電気の契約プランの変更です。
電気は電力自由化により、賃貸物件であっても自分の好きなように電力会社を選べるようになりました。そのため、電力会社を変更すると大幅に電気代が安くなる可能性もあります。
他には今契約している電気の契約ワット数を下げることも一つの手です。
直近一年間の電気代を洗い出してみて、最も利用している月の電気代が現在契約しているワット数よりも明らかに下回っているようであれば、契約ワット数を下げてみましょう。
そうすれば、毎月の電気代の基本料金が節約できます。
飲食店は店舗を賃貸契約しているケースが多いため、契約の際に管理オーナーに電気の契約関係を任せきりというパターンも多いでしょう。しかし新電力に関しては建物の契約状況に関わらず簡単に切り替えることが可能です。
電力会社との契約は、住まいでの契約と同じように自分の意志で自由にできるため、建物管理者がNGを出すこともありません。
契約している会社やプランを変更するのは手間ですが、一度変更するとコスト削減効果が長期間持続します。切り替えの簡略化なども進んでいますので、手間を惜しまずより自店舗にあった内容に見直すことが大切です。
弟子「電力会社やプランを切り替えるのって大変そう…」
おかげ丸「実際には、電話やインターネットで簡単に切り替えられることが多いので、安心するまる!」
③水道代の減免
飲食店を営業している地域によっては、下水道代の減免を行える場合があります。
例えば、東京都の場合、1か月あたりの利用水量が51~200㎥間の水量1㎥につき、5円を乗じて得た額に100分の110を乗じた料金が減免されます。
計算例)
1ヶ月の利用水量が90㎥の場合
(90-51)×5×110/100=214円
金額としては大きくないですが、普通に水道を利用するよりも安く済ませられます。
まずは、飲食店を営業している地域が下水道減免の対象になっているか、調べてみてはいかがでしょうか。
水道代を抑えるという観点では、業務用食洗器の導入をおすすめします。
初期費用はかかりますが、長い目で見れば水道代の削減につながることも考えられます。
食器やカラトリー類などを手洗いする場合、どうしても必要以上の水を使ってしまいがちです。
食洗器のなかには、中に入っている食器の量を検知して必要最小限の水量で洗ってくれるようなものもあるので、そういったものを利用することで水道代を効率的に削減できるでしょう。
おかげ丸「『地域名 水道料金 減免』とネットで調べると、水道料金の免除があるか調べられるまる」
④リースの見直し
厨房機器など、リース契約で利用している機材も見直し対象になります。
具体的には、以下のことをするといいですよ。
- そもそも必要かどうか検討する
- 他社とリース代を比較して見直す
契約期間もあるので、すぐに見直しに取り掛かるのは難しいかもしれません。
とはいえ、実際は機器の使用頻度が少なかったり、他社の方が安かったりする可能性もあります。
リース契約の見直しをいつでもできるように、一度、機器の必要性を考えたり、他のリース会社を調べたりしてみましょう。
場合によっては、リースで利用するのではなく購入したほうがお得になるというケースも考えられます。
そういった点も踏まえて、リースで利用するということを前提にするのではなく、根本的に見直してみるのもよいかもしれません。
⑤ネットバンクへの切り替えで手数料節約
取引している銀行口座をネットバンクへ切り替えるのも有効な手段です。
メガバンクよりもネットバンクの方が手数料が安く済むことが多いからです。
手数料自体は、1回あたりの金額としては小さいものです。でも、事業で使うとなると、結構な金額になる場合もあります。
ネットバンクは、一定の回数だけ手数料無料で使える所が多いです。
そのため、事業で利用しているメインバンクをネットバンクに乗り換えることで手数料の節約に繋がります。
⑥ガス料金の削減
電力の自由化が起きているように、ガスにおいても会社を自由に選べるようになってきました。ガスの供給元をしっかり比較して選ぶことで、ガス料金を効率的に削減することが可能です。
特に都市ガスとプロパンガスでは料金の差が大きいので、できるだけ都市ガスを利用するのが望ましいでしょう。
飲食店で用いられるガスの量は一般家庭と比較するととても多いため、基本使用料がなるべく安いガス会社を選ぶだけで、年間出費の削減につながります。
また、電気とガスを両方供給している会社も多く、セットで契約することで割引になるプランも多く存在します。
ガス料金単体で考えるのではなく、電気料金もセットで考えて最も安くなるような会社やプランを選ぶとよいでしょう。
変動費を減らす6つの方法
次に変動費を減らす方法もお伝えしますね。
上でもお伝えしましたが、変動費を減らしてしまうと、サービスの質が下がってしまうリスクもあるので、慎重に行う必要があります。
ここでは、簡単にできる方法を4つお伝えしますね。
- ①照明をLEDに切り替える
- ②宣伝DMは郵送ではなくポスティングやメール、LINE@に切り替える
- ③余剰在庫を減らす
- ④仕入単価を下げる交渉をする
- ⑤原料コストを削減する
- ⑥人件費を削減する
①照明をLEDに切り替える
照明をLEDに切り替えることで電気代を節約できます。
一般的な消費電力を見てみると、白熱電球が54W程度に対してLEDは8W程度、これで電気代を1/7も抑えることができます。
さらにLEDは熱を出しにくいので、夏の冷房に掛かる電気代の節約にもつながります。
白熱電球の場合、エネルギー変換効率はたったの10%、90%ものエネルギーが熱として放出されます。
一方でLEDはエネルギー変換効率が30%、残りの70%は熱として放出されます。白熱電球の場合は消費電力が大きく、LEDよりも多くの熱が出ているわけです。
なので、LEDに変えるだけ夏場の冷房代を減らせますよ。短期的に見るとLEDの導入にコストは掛かりますが、長期的に見れば、電気代を節約できます。
②宣伝DMは郵送ではなくポスティングやメール、LINE@に切り替える
郵送でDM(ダイレクトメール)を送っている場合、DMの送り方を変えてみるのも手です。
郵送先が百件千件ともなると、郵送代も高額になります。
郵送であればハガキであっても60円程度してしまいますが、ポスティングなら費用を抑えられることが多いです。
他にもメールやLINE@であれば、連絡先を知っているお客様に限られますが0円でDMを送れますよ。
③余剰在庫を減らす
余計な変動費を減らすために、余剰在庫を減らしてみましょう。
とはいえ飲食店にとって、在庫切れは避けたい事だと思うので、実際に行うには少し工夫が必要です。
日々の経営の中で、「頻繁に捨てている食材が無いか?」
を確認するようにしましょう。日頃から在庫管理を意識すれば、徐々に余剰在庫を減らしていけますよ。
④仕入単価を下げる交渉をする
これは難しい方法かもしれませんが、仕入単価を下げられるように仕入れ先の業者さんに交渉してみるのも一つの手です。
仕入れの原価が下がれば、利益率は必然的に上がります。
もし可能であれば仕入れ先の業者さんに交渉して、材料を値下げできないか、交渉してみましょう。
「安くしてほしい」とストレートに伝えるより、「今後も継続的に仕入れるので、ちょっとおまけしてくれませんか?」とメリットを伝えて交渉すると提案が通る可能性が高くなります。
弟子「変動費は店のサービスに直結することが多いから難しいね」
おかげ丸「だけどLEDやメールみたいに、ツールを変えるだけで支出が下がったりすることもあるまる。サービスの質を下げずに変動費も節約できないか考えてみるまる」
⑤原料コストを削減する
原料コストを削減するというのは、難しい問題です。
上述した仕入単価を下げるということにつながる部分もありますが、それ以外には、旬の食材を多めに取り入れるという方法が考えられます。
旬の食材はほかの食材と比べて安く大量に仕入れられることが多い上に、旬の食材を使った料理はお客様にも喜ばれやすいです。
そのため、季節ごとに旬の食材を使用したメニューを増やすことで、原料のコスト削減とお客様の満足度向上という2つのメリットを、同時に享受することができます。
また、今までは仕入れすることがなかったワケあり食材や新商品を仕入れることも検討してみましょう。
たとえば、魚の頭はそのまま料理として出すことは難しいですが、いい出汁を取ることができますし、魚の種類によってはあら汁として提供できるかもしれません。
また、野菜の切れ端などを安く仕入れたり、無料で譲り受けたりすることができるのであれば、それらを利用して野菜だしを取ることもできます。
料理のレパートリーが増えることは、常連のお客様に喜ばれることにつながりますし、新しいお客様を呼び込むきっかけになるかもしれません。
コスト削減を行えるだけでなく、さまざまなメリットを享受できる可能性があるのであれば、チャレンジしない手はないでしょう。
⑥人件費を削減する
人件費は変動費の中では比較的多くの割合を占める費用なので、うまく減らすことができれば効果的な費用削減に繋がります。
ホールやキッチンなどのスタッフをアルバイトという形で雇っているお店は多いと思いますが、アルバイトのシフトを見直すことで、人件費を削減できる可能性が高まります。
スタッフ人数を常に一定にするのではなく、お客様の人数が少ない時間帯はスタッフも無理なく対応できる人数に減らすシフト構成にすることで、スタッフからも苦情が出ることなく人件費を抑えられるでしょう。
お客様の人数が少ない時間帯に関しては、過去の売上データや来店データなどをもとにして、判断するようにしましょう。
おかげ丸「スタッフを減らしすぎるとサービスの質が低下することもあるから、やりすぎには注意まる」
コスト削減に最適なセルフオーダーシステムを導入する
セルフオーダーを導入することで、店舗運営のコストを下げるたくさんのメリットを享受できます。
ここではセルフオーダーを導入することによるコスト面から見たメリットを紹介します。
①人件費を削減できる
セルフオーダーシステムを導入する最大のメリットは人件費の削減につながることです。
お客様は店員を呼ぶことなく注文できるようになるので、ホールに配置するスタッフの人数を減らすことができます。
システムによってはオーダーだけでなく、支払いまで完了できるようなものもあります。そのようなシステムを導入すれば、閉店後のレジ締め作業なども簡略化できます。
また人件費削減以外にも、人材採用面においてもメリットがあります。
人手不足に悩みながら採用活動でかけていたコストは、セルフオーダーシステムを導入することで人員数削減につながるため、不要な採用コストもかからずに済みます。
人件費削減のためにいろいろ施策をしてきたが効果が出ない、人材がなかなか集まらず人材広告費だけかかっている、などで悩んでいるときはセルフオーダーシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
②注文数や客単価の底上げにつながる
セルフオーダーシステムを導入することでお客様の好きなタイミングでオーダーすることが可能になります。
「店員さんが忙しそう」「注文しようと思っても店員さんがいない」ということにならず、注文までの時間損失や機会損失を防ぐことができます。
端末を見ながらじっくりとメニューを選べるため、注文数が増えることにより、客単価の増加にも期待できます。
③ペーパーレス化につながる
お客様からの注文状況は厨房にてタブレットで確認できるため、厨房で使っていたプリンター類を廃止できます。
メニューに使用していた用紙やペーパーレス化にもつながり、エコ・省エネ・経費削減になります。
まとめ:固定費・変動費を把握することが黒字化には必要不可欠
ここまで飲食店経営における固定費と変動費について解説しました。
固定費とは
- 地代・家賃
- 減価償却費
- 支払い利息
- リース料
- 光熱費の固定契約料
- 正社員の人件費
など、毎月必ず決まった金額の支出である項目のこと
変動費とは
- 食材の原価
- パート・アルバイトの人件費
- 光熱費
- 販売促進費
- 消耗品費
など、毎月の支出額に変動がある項目のこと
繰り返しになりますが、変動費はサービスの質に影響することが大きいため、削減を実行する場合は慎重にした方がいいです。
まずは、サービスの質に影響しづらい固定費を削減するところから始めてみましょう。何より固定費は一度削減ができれば、継続的に支出の削減が見込めます。
そして、飲食店を安定的に経営するためには、固定費と変動費を把握することが大切です。
弟子「支出を削減する方法っていろいろあって、大変そう…」
おかげ丸「一気に削減せずに、お店のサービスの質が下がらない範囲で少しずつ節約していくのがオススメまる!」